10月にアップしたレビューの大半は、9月の旅行の際に読んだ本のもの。念願の長期欧州旅行に行ってきたのです。古本屋の安価文庫本を買い入れておき、片っ端から読み捨ててくるのですが、いつもより軽めの本ばかりになってしまいますね。ただし上位2冊は、旅行前に読んだ単行本です。
明治期に建てられた帝国図書館は、現在では「国際子ども図書館」の一部となっています。そこは日本を近代文化国家となしたいという理想と、費用圧縮のせめぎあいが闘われた場所であると同時に、多くの近代作家を生み出した場所でもあったのです。戦後の混乱期に帝国図書館の思い出を有する年配女性と知り合った、著者を思わせる女性が、彼女の幼年時代へと遡っていきます。
2.ある一生(ローベルト・ゼーターラー)
本書で綴られるのは、アルプスに抱かれた村で20世紀はじめに生まれ、貧しく平凡な生涯を送った男の物語にすぎません。しかし誰の人生も特別なものであるように、彼の人生には幾多の個人的な事件が散りばめられているのです。簡潔で力強い語り口は、客観的に見るならば悲劇の連続でしかない出来事を淡々と受け止めてきた、主人公の生き方と重なっていきます。
3.アンのゆりかご(村岡恵理)
『赤毛のアン』の翻訳で知られる村岡花子の生涯を、孫娘である著者が綴った作品は、朝ドラ「花子とアン」の原作にもなりました。本書を読むと、彼女の原点が明治期のミッションスクールにあったことがよく理解できます。モンゴメリと同時代に生きたカナダ人宣教師から、カナダの生活や理念を学んでいたのですね。学友だった柳原白蓮との生涯に渡る友情や、夫・敬三との深い夫婦愛も、ミッションスクールによる人格形成をベースに置いてみると、頷ける気がします。
【その他今月読んだ本】
・ジョン・マン2 大洋編(山本一力)
・ジョン・マン3 望郷編(山本一力)
・ジョン・マン4 青雲編(山本一力)
・嵯峨野花譜(葉室麟)
・ジョン・マン5 立志編(山本一力)
・ジョン・マン6 順風編(山本一力)
・妙なる技の乙女たち(小川一水)
・案内係(フェリスベルト・エルナンデス)
・僕の光輝く世界(山本弘)
・セレモニー(王力雄)
・べにはこべ(バロネス・オルツィ)
・襲来(帚木蓬生)
・未踏峰(笹本稜平)
・水族館ガール(木宮条太郎)
2019/10/30