りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015/5 恋歌(朝井まかて)

最近になって、沢木耕太郎さんの「私ノンフィクション」に惹かれるようになってきました。『深夜特急』だけの作家ではなかったのですね。『流星ひとつ』も良かったのですが、ただ1人の読者に向けて書かれた作品ですので、1位からは外しました。

朝井まかてさんも、また、1年前の直木賞受賞以来、注目するようになった作家です。

1.恋歌(朝井まかて)
樋口一葉や三宅花圃を教え育てた明治期の歌人・中島歌子には、幕末の水戸で体験した壮絶な過去があったのです。水戸藩士の若妻として、天狗党と諸生党の対立に巻き込まれて投獄され、死を間近に感じた歌子の手記には、「恩讐を超える仕掛け」が込められていました。強烈な印象と爽やかな読後感を残してくれる、直木賞受賞作品です。

2.流星ひとつ(沢木耕太郎)
歌手・藤圭子の引退に際してのロングインタビューをもとに構成された作品は、33年もの間封印されていました。その封印が解かれたのは、「母親が精神の病に苦しむ姿」しか知らないという娘・宇多田ヒカルさんに、「藤圭子という女性の精神の最も美しい瞬間」を知って欲しかったからだそうです。確かに、彼女の魅力を十分に引き出した作品となっています。

3.紙の民(サルバドール・プラセンシア)
メキシコ移民のフェデリコは、なぜ悲劇に付きまとわれるのか。彼は、上空から全てを見て運命を左右する「土星=著者」対して戦いを挑みます。そこに関わる紙で作られた人々もまた、「作家の創造物」なのでしょう。「実験小説」的な作品なのですが、種々雑多なものたちが混然一体となって、喪失と失恋の悲しみに収斂されていく展開には、勢いを感じます。



2015/5/30