1.チンギス紀 17(北方謙三)
著者渾身のライフワークである「大水滸シリーズ」がついに完結。「水滸伝19巻」、「楊令伝15巻」、「岳飛伝17巻」に続く「チンギス紀17巻」ですから、全部で68巻。気の遠くなるようなページ数です。著者は直木賞選考委員を退任した際に「最後の長編に挑みたい」と表明しましたが、それは本シリーズの続編になるのでしょうか。ただ本書には「書き切った感」が強く出ているので、そうではないように思えます。短編でよいので未来へと続くエピソードなど書いてくれると嬉しいのですが。
2.大仏ホテルの幽霊(カン・ファギル)
強いて分類するなら、メタフィクションの手法で書かれたゴシックスリラーとなるのでしょう。しかし朝鮮戦争の惨禍が色濃く残る1955年の仁川に居場所を見つけた3人の男女の「恨(ハン)を昇華させる物語」は、ジャンル分けなどに馴染まないほど重いのです。著者がこれまで綴ってきたフェミニズム要素も多分に含まれており、奥行きの深い重層的な作品となっています。
インドネシアの小島で発見された「海中に聳え立つ仏塔」は、11世紀にアラビア人が上陸する前の文明の遺物なのでしょうか。かつてボロブドゥール遺跡公園整備に携わった主人公は、この遺跡の保護を自らの使命と心に決めて本格的な調査に乗り出しますが、現実的な障壁は厚いのです。そして集落の漁民たちによれば、そこは今も生きている原始宗教の聖地なのでした。『ゴサインタン』、『弥勒』、『転生』、『Xωραホーラ』、『インドクリスタル』など、近代国家と一神教に収まり切れない原始宗教の世界を定期的に描き続けている著者の筆致は確かです。
【その他今月読んだ本】
・ある犬の飼い主の一日(サンダー・コラールト)
・アンダードッグス(長浦京)
・夢胡蝶(今村翔吾)
・李の花は散っても(深沢潮)
・その丘が黄金ならば(C・パム・ジャン)
・僕は、そして僕たちはどう生きるか(梨木香歩)
・チンギス紀 16(北方謙三)
・マイ・シスター、シリアルキラー(オインカン・ブレイスウェイト)
・最後のライオニ(キム・チョヨプほか)
・思い出すこと(ジュンパ・ラヒリ)
・播磨国妖綺譚(上田早夕里)
・赦しへの四つの道(ル=グィン)
・狐花火(今村翔吾)
2024/3/30