りぼんの読書ノート

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狐花火(今村翔吾)

江代中期の火消たちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」第7巻は、過去の忌まわしい事件の記憶が蘇ってくる物語。バックドラフト、粉塵爆発、ガス火災、自然発火などの悪魔的な仕掛けを用いた連続放火事件の手口は、2年前に愛娘と愛妻を失った悲しみから明和の大火を起こした「狐火」こと天才花火師・秀助を思わせるのです。新庄藩火消頭の松永源吾と対決の末に捕えられ火刑となったはずの秀助は、まだ生きていて、過去の恨みを果たそうとしているのでしょうか。秀助は死の直前に恩讐を越えた存在になったと、源吾は確信していたのですが・・。

 

本書では、秀助の手口を用いる放火事件の犯人や背景と並んで、亡くなる間際に秀助がたどり着いた心境が描かれていきます。ぼろ鳶組のメンバーのみならず、互いに信頼し合う加賀鳶の大音勘九郎、仁正寺藩の柊与一、に組の辰一らに加えて、田沼意次の手先である公儀隠密の火消・日名塚要人や、罪を犯した謹慎から解けた八重洲河岸火消の進藤内記なども活躍。さらには「火消番付狩り」と称する正体不明の青年まで登場。しかし事件を解く最大の鍵は、全く頼りにならない新人火消の中にいたのです。

 

新人火消を登場させる仕掛けとして、プロ野球のドラフト制やFA制を思わせる「火消鳶市」なるアイデアを持ち出したあたり、著者はかなり楽しんで書いているようです。数多くある火消組の実力差を是正するために田沼意次が考えた制度ということですが、まさか実際にあった制度ではないですよね。しかも源吾や勘九郎らが教師役を務める教練の最中に大掛かりな放火が発生し、火消オールスターチームまで編成されてしまうのですから。そこから一気に、瀕死の秀助と縁を持った新人火消を修羅場で登場させるあたり、緩急の変化も見事です。

 

2024/3