貧しい新庄藩お抱えの江戸火消組を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の３作目には、新たな敵が登場してきます。火事を起こしてその隙に家人皆殺しの押し込み強盗を行う、残虐非道な強盗集団の千羽一家が、京都西町奉行となった長谷川平蔵に追われて、上方から江戸にやってきたのです。彼らは、政敵の田沼意次を失脚させることで次期将軍の座を狙っている一橋治済公と繋がっているのでしょうか。
その報せを受けた「ぼろ鳶組頭」の松永源吾は、全くの役立たずである新たな火付盗賊改方長官の島田の制止を振り切って火消に奔走。しかし火事の現場には、町火消最強と恐れられる「に組」頭の「九紋龍の辰一」が乱入。なぜか火事には手をつけず、次々と野次馬たちを捕え始めて大混乱を引き起こします。彼の不思議な行動には何か理由があるのでしょうか。その一方で、これまで火消組を保護してきた新庄藩家老の北条六右衛門が病に倒れ、代行として現れた藩主の一門に連なる戸沢正親が火消の削減を宣言。どうやらそこにも一橋公の意図が関わっていそうです。
千羽一家の手口のからくりや、九紋龍辰一との意外な因縁が、本書のメインテーマですね。もちろんシリーズを通じて底流に流れ続けているのは、江戸の火消たちの矜持や仲間意識です。頼もしいリーダー・松永源吾、火消経験ゼロの剣士・鳥越新之助、放水名手の一番組頭・魁武蔵、博覧強記の軍師役・加地星十郎、元軽業師の纏持・彦弥、怪力無双の壊し手・寅次郎らの魅力的な火消組メンバーに加えて、かつて勘定小町と呼ばれた源吾の妻・深雪も大活躍。出産を控えているので大事をとって欲しいのですが・・。
池上冬樹氏がクーンツの『ベストセラー小説の書き方』を引用しながら、本書が面白い理由を解説しています。「アクションからはじめよ」「主人公を追い詰めよ」「人物は変身をとげなければならない」などの教えが、ひとつひとつ当てはまっているとのこと。中でも「結末がおもしろくなければ失敗作」については、事件解決後の最終章「勘定小町参る」が完璧にクリア。著者が４年後に直木賞を受賞したことも頷けます。
2023/12
