りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

鬼煙管(今村翔吾)

江戸の町を舞台にする火消し組の活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の第4巻ですが、本書の舞台は京都です。京都西町奉行に転任した長谷川平蔵からの依頼で京に呼ばれた松永源吾らが挑むことになるのは、奇怪な連続付け火事件でした。全く火の気のないところから人を焼き尽くす炎を起こすというのは、どのような手法を用いているのでしょう。そして一連の事件の背後に潜む巨悪の正体と、その狙いは何処にあるのでしょう。

 

乾燥油である亜麻仁油は、乾燥する過程で空気中の酸素と結合して酸化反応を起こすとのこと。その反応熱が発火点に達すると火災が起こるというのですが、それを可能にする器具が発明されていたんですね。携帯用の火消道具である加圧式の霧吹き水鉄砲の原理を応用したようなのですが、そんな器具を使える者は限られています。どうやら犯人は巨悪にそそのかされて闇落ちしたようなのですが・・。

 

松永源吾と似た性格の淀班常火消頭の野条弾馬や、火消道具を専門に扱う絡繰師の平井利兵衛と水穂の父娘や、六角獄舎の奥から全てを見透かしている、まるでレクター博士のような野狂こと鷹司惟兼など、京の登場人物も多士済々です。源吾とともに上京した組頭の魁武蔵は水穂に惚れてしまったようですが、やがて再会の機会もあるのでしょう。

 

初代長谷川平蔵・宣雄は、京都西町奉行時代に亡くなっています。後に「鬼平」と呼ばれる2代目長谷川平蔵・宣以が登場しますが、当時はまだ悪童の面影を残す暴走青年・銕三郎にすぎませんでした。本書は壮絶な父親の死を目の当たりにすることになる銕三郎の成長物語にもなっています。「人も身分は違えど煙草の銘柄と同じ。最後は煙に変じて灰になる」との父・平蔵の言葉は身に染みたはずです。

 

2024/2