りぼんの読書ノート

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グラーフ・ツェッペリン(高野史緒)

著者の出身地である土浦を舞台にして、少年と少女の奇妙な出会いが世界を変えてしまう、青春SF物語。2021年、土浦二高に通う女子高生の夏紀の世界は、月や火星の開発は進んでいるもののインターネットは普及していません。しかも夏紀の周囲では電子通信機器が不調になってしまうのです。一方で飛び級で大学に進学して量子コンピュータの開発に携わることになった登志夫の世界では宇宙開発は発展途上なのです。

 

どうやら2人は別々の世界に生きているようなのですが、2人には共通の記憶がありました。それは土浦の霞ケ浦航空隊基地に立ち寄った飛行船ツェッペリン号の雄姿です。でも100年近く前の出来事ですから、年代は合いませんね。しかも夏紀の世界のツェッペリンは土浦で炎上墜落したのに対し、登志夫の世界では無事に世界一周を成し遂げています。

 

そんな2人が出会うのは、登志夫が装着したオープン・メタバース世界でのことでした。どうやらツェッペリンの墜落の有無で分裂してしまった世界が、今また互いに干渉し合っているようなのです。そしてその結節点に存在しているのが夏紀と登志夫のようなのです。2人の関係は、いや2つの世界はどうなってしまうのでしょう。本書は、不安定な量子運動を17歳の男女に託して描いた作品だったのですね。少々抒情的に過ぎた感はありますが、楽しめました。

 

2024/2