りぼんの読書ノート

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ハリー・オーガスト、15回目の人生(クレア・ノース)

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完全な記憶を有したまま、同じ状況で生まれ変わって人生を再開できる特異者を主人公とする「リプレイもの」。同じ体質を持つ者が複数いると遠い未来のこともわかるようです。自分が高齢で死ぬ間際に、次の世代の若者の記憶を伝えてもらえば、自分の死後の出来事もわかるわけで、これを繰り返せば世代を超えた長期間の記憶の連鎖が可能になるというのです。

1919年に生まれたハリー・オーガストは、3度目の人生で特異体質を理解し、4度目の人生で「クロノスクラブ」という特異者の共同体に迎え入れられます。毎回微妙に異なる人生を繰り返してきたハリーですが、11回目の時に異変が起こります。死の間際に訪れた少女から「世界が終る」と知らされ、彼が世界の終わりを食い止める使命を負っているというのです。

どうやら終焉の原因は、同じ体質を持ち、ハリーと同じ時代に生きる科学者ヴィンセント・ランキスの模様。どうやら彼は、記憶の蓄積を利用して科学技術の進化を加速させているようなのです。神と同様の視点を手に入れる「量子ミラー」を20世紀後半に開発することは、人類にどのような災厄ををもたらすのでしょうか。本書はその点は避けてしまい、いかにしてハリーがヴィンセントの野望を食い止めるかという物語に徹しているのですが、少々物足りなさを感じます。

そもそも本書では「タイムパラドックス問題」や「パラレルワールド問題」はクリアされていないので、「時を越えた2人の闘い」がよほど面白くないといけないのです。相手の死が勝利を意味することにはなりませんから、特異者から記憶を失わせる方法や、再誕生を阻止する方法を巡って闘いが行われるのですが、少々都合が良すぎる印象だったのが残念です。

2017/7