りぼんの読書ノート

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蜜蜂と遠雷(恩田陸)

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新たな音楽の地平を目指してピアノコンクールで競う視点人物は4人。養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない15歳の風間塵。かつて天才少女として将来を嘱望されていたものの、母の突然死以来ピアノから遠ざかっていた20歳の栄伝亜夜。楽器店勤務のサラリーマンで年齢制限ギリギリの28歳の高島明石。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院に在籍する19歳のマサル・レヴィ=アナトール。

鍵になるのは、弟子をとらないことで有名だった亡くなった巨匠ホフマンから「音楽界へのギフト」として推薦された風間塵ですね。本書は、彼が「ギフト」であるという意味を理解するまでの物語といっても過言ではありません。ホフマンが風間に語ったという「音楽を世界に連れ出す」とはどういうことなのか。「型にはまった演奏や、技巧的にうまいだけの演奏ではなく、真に個性的な才能を開花させる」ためには、何が必要だったのか。

恩田さんの直木賞受賞作なので楽しみにしていたのですが、正直言って少々期待外れでした。もともと著者にはチョコレートコスモスという「女優オーディション小説」があるのですが、その水準を超えてはいないように思えます。「演劇の文章化」と比べて「音楽の文章化」の難度が高いことは理解できるのですが、その点でも羊と鋼の森(宮下奈都)のほうが勝っていたように思えるのです。

ついでながら本書に登場する審査員・嵯峨三枝子のモデルは、浜松国際ピアノコンクールの審査委員長を長く務めていた中村紘子さんではないでしょうか。本書は、彼女が30年前にチャイコフスキー・コンクールで指摘していたピアノコンクールの問題に対する、著者の回答なのかもしれません。

2017/7