りぼんの読書ノート

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祝祭と予感(恩田陸)

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人生を賭けてピアノコンクールに挑んだ少年少女たちの姿を描いた『蜜蜂と遠雷』のスピンオフ小説です。3人の主人公のその後の姿のみならず、審査員や音楽教師らの若き日のエピソードなども含まれており、本編を深く理解するのにも有益な作品でしょう。

 

「祝祭と掃苔

コンクール入賞者のコンサートツアーのはざま、パリに飛び立つ前日に、亜夜とマサルが2人共通のピアノの恩師・綿貫先生の墓参りに訪れます。なぜかついてきた塵を含めた3人は、パリツアーのついでに塵の恩師であったホフマンの墓参りに行く約束を交わすのでした。彼らの前に広がる未来を感じさせてくれます。

 

「獅子と芍薬

芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員であったナサニエルと三枝子が、元夫婦であったことは本編の中で明らかにされています。2人の馴れ初めは、コンクールで同時入賞を果たしたことだったのですね。しかも1位なしで2位がふたり。一位であったらホフマンへの弟子入りを約束されていた2人は、当然のようにいがみあうのですが・・。

 

「袈裟と鞦韆」

コンクールの課題曲「春と修羅」を作曲した菱沼忠明は、忘れられない教え子を失ったばかりでした。曲想と楽譜のギャップに苦しみ、岩手で農業を営む傍らで作曲を続けていた教え子の姿が、宮沢賢治のイメージと重なってきます。

 

「竪琴と葦笛」

ジュリアード音楽院時代のマサルが、ナサニエルに師事するようになったきっかけが綴られます。「才能コレクター」であった傲岸な教師にマサルが潰されることを危惧したナサニエルでしたが、マサルはしたたかな少年でした。そしてナサニエルは彼に音楽の楽しさを教えるのです。

 

「鈴蘭と階段」

亜夜の先輩の奏は、ヴィオラの選択に悩んでいました。奏者と楽器との相性が重要なのであり、高価な名器ならいいというわけではないのですね。そんな時にプラハにいた亜夜と塵から架かってきた電話が、奏の迷いを断ち切ることになるのでした。

 

「伝説と予感」

巨匠ホフマンが幼い塵と初めて出会った瞬間のエピソードは、早くも伝説となっていくのでしょう。

 

2021/7