りぼんの読書ノート

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チャイコフスキー・コンクール(中村紘子)

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長らく日本人女性ピアニストの代名詞的存在であった著者が、1986年に世界屈指の音楽コンクールで審査員を務めた際に観察したことを中心に据えて書かれた作品です。著者の観察眼の確かさと、文章の上手さに感心しました。大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したことも納得できます。

今から30年近く前のことであり、音楽家の名前はピンとこない人が多いのですが、それでもホロビッツリヒテルといった巨匠、クライバーンやアシュケナージといった初期の入賞者、ブーニンキーシンといった当時の人気若手などは聞き覚えがあります。また、当時のモスクワはペレストロイカ直後で大混乱の最中だったことも、想像はつきます。

各コンクールの性格や審査方法の説明は新鮮でした。ショパン・コンクールとチャイコフスキー・コンクールでは、課題曲はもちろん、好まれる演奏方法なども異なるとのこと。どちらか片方だけに向いているピアニストもいそうです。審査員のチェックポイントは、技術の練度、音楽的素養、演奏が「音楽的」であるとのことですが、判断は難しそう。特に最後の項目が。まさか、エティエンヌ・バリリエのピアニストの評論家のようなことはないのでしょうが。

コンクールの優勝が一流演奏家への登竜門であることは、今も昔も変わっていないようです。チャイコフスキーショパンエリザベートの「三大コンクール」の権威は揺らいでいないのでしょう。ただし、コンクール数が増えすぎているため、マイナーなコンクール入賞程度では「アマチュア扱い」というのは、厳しいですね。

2016/2