りぼんの読書ノート

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解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯(ウェンディ・ムーア)

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皆川博子さんの開かせていただき光栄ですを読み、主役の解剖学者・ダニエルのモデルとなった「ジョン・ハンター」のことを知りました。18世紀半ばのロンドンで生命の神秘を解明すべく、半ば非合法の死体解剖と標本蒐集に務め、後に「近代外科医学の父」と呼ばれるようになった人物です。奇人としても有名で、ドリトル先生『ジキルとハイド』のモデルとも言われているとのこと。

イギリスの女性ジャーナリストによる本書は、そんなジョン・ハンターの波乱の生涯を丁寧にたどった評伝小説です。瀉血や水銀治療という旧弊な医療に異を唱え、感染症という概念もない時代に安易な手術に反対し、それでいて外科医として一流の腕を持ち、ダーウィンより70年前に進化論を見抜き、ジェンナーやパーキンソンなどの優秀な学生を「観察し、推論し、記録せよ」という「ハンター流儀」で育てあげるなど、彼の功績は枚挙にいとまがありません。

その一方での「奇人ぶり」は、各章のタイトルを並べるだけでも味わえるでしょう。「御者の膝、死人の腕、墓泥棒の手、妊婦の子宮、教授の睾丸、トカゲの尻尾、煙突掃除夫の歯、乙女の青痣、外科医のペニス、カンガルーの頭蓋骨、電気魚の発電器官、司祭の首、巨人の骨、詩人の足、猿の頭蓋骨、解剖学者の心臓」。テーマがテーマだけに、少々グロい箇所もあります。最後の項目は、狭心症で亡くなった彼自身の心臓のこと。もちろん、解剖に献体されました。

皆川博子さんの小説が、ジョン・ハンターと優れた弟子たちの特徴を見事にとらえていることに、あらためて気づかされました。次は、続編のアルモニカ・ディアボリカを読んでみましょう。

2016/2