近代警察組織が生まれる前の18世紀ロンドンで、盲目の治安判事として尽力したジョン・フィールディングを、やはり実在の解剖学者ジョン・ハンターをモデルにした外科医ダニエルと組み合わせた歴史ミステリ、『開かせていただき光栄です』の続編です。
5年前の事件で愛弟子エドとナイジェルに去られたダニエルはパワーダウンしており、今回の主役はサー・ジョンに移っています。姪のアンを「目」として用いて事件の捜査を進める一方で、法の理念と現実とのギャップを心痛する判事の存在感は圧倒的。ダニエルの弟子だったアルや詩人志望ネイサンなどに、犯罪防止新聞を編集させていますが、彼らには再び手を焼かされます。
アルたちのもとに、「ベツレヘムの子よ、よみがえれ!アルモニカ・ディアボリカ」という謎の文字が胸に記された身元不明の死体の情報を求める広告依頼が舞い込みます。なんとその死体は、行方不明だったナイジェルでした。捜査を始めたサー・ジョンとアルたちは、ナイジェルの過去に秘められていた国家的スキャンダルへと巻き込まれていきます。
「ベツレヘム」とは、通称をべドラムといった「王立ベスレム精神病院」のこと。狂女の私生児として生を受けたナイジェルは、そこで育てられていたのです。なぜか特別待遇を受けていたナイジェルの母の周囲には、腐敗した上流階級の暗部を隠すために病院に閉じ込められていた者たちが集まっていました。その中には、かつてフランクリンの依頼で「アルモニカ・ディアボリカ(悪魔のハーモニー)」と呼ばれる楽器を制作したガラス職人もいたのです。
国王ジョージ3世を招いた、15年前の楽器披露コンサートで何が起きていたのでしょう。そして、ナイジェルが病院を出る際に起こった事件とは何だったのでしょう。そしてナイジェルは、なぜ殺害されてしまったのでしょうか。
真相にいち早く気づいたのは再登場したエドであり、法では裁ききれない事件に対して直截的に対応したエドの処分に、サー・ジョンは苦悩します。最終的には、当時起こっていたアメリカ独立戦争によって救われるのですが・・。解剖医ダニエルの活躍は少なかったのですが、史実を絡めて当時のロンドンの暗部を描き出した傑作です。
2016/2