りぼんの読書ノート

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曽呂利!(谷津矢車)

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豊臣秀吉に御伽衆として仕えたといわれる曽呂利新左衛門を中心に据えて、豊臣政権末期の人間模様を描いた作品です。講談本では、権威を笑い飛ばす頓智の才能をもって、気難しくなった晩年の秀吉の唯一の話し相手となったと言われる人物に、新しい解釈を持ち込みました。

物語は、曽呂利の周辺にいた人物によって語られていきます。ある者は曽呂利を軽んじ、ある者は曽呂利を妬み、ある者は曽呂利の機知を評価しながらも、いつの間にか破滅へと追い込まれていく語り手たち。蜂須賀小六千利休石川五右衛門豊臣秀次足利義昭石田三成らは、曽呂利の中に何を見たのでしょう。曽呂利とは、道化の仮面の下に悪魔の素顔を隠し持っていた「獅子身中の虫」だったのでしょうか。

冒頭で曽呂利をリクルートする武将の正体は終盤まで明らかにされませんが、そこがポイントではありません。曽呂利と関わって破滅への道を歩み出した者たちは、曽呂利との対話の中で、自分自身の本心を引き出されたにすぎないようなのです。

若い著者による作品ですので、粗さも目立ちますが、面白い着想です。落語家の祖となった美濃・金森家の末裔で、時に曽呂利と同一人物ともいわれる安楽庵策伝の使い方が良かったですね。

2016/2