りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

翼を持つ少女(山本弘)

イメージ 1

お勧めの本を紹介しあう書評会を競技化したのが「ビブリオバトル」。2007年に京都の研究室ではじまった運動が、全国規模にまで広がっているとのこと。本書は、若い世代のSF離れを憂う著者が、SF界の活性化のために書いた、「SF大好き少女を主人公に据えたビブリオバトル小説」です。

中高一貫の美心国際学園(BIS)の高等部へ編入した、SF大好き少女・伏木空が、SFに理解のない同級生・埋火武人に誘われてビブリオバトル部に入部したところから、物語が始まります。個性的な仲間に囲まれて、自分の好きなことを熱く語る楽しさに気づいていく伏木でしたが、人に「読みたい」と思わせるためには、それだけでは不十分。重要なのは、本を介して人と繋がることだったのですね。

互いに意識しながら表面上は対立している伏木と埋火の関係は、「ラノベの王道」であって微笑ましい限り。冷静な論理を大阪弁で熱く語る部長、キュートキャラながら常に適切な本の選択をする下級生の少年、コミック好きなハーフ腐女子、サイエンス系の先輩美女など、登場人物のキャラも立っています。

しかし著者自身が後書きに書いているように、この運動の弱点は「悪意ある者を排除しにくい」ことなのでしょう。本書にも、ビブリオバトルを怪しい人種差別主義の宣伝に使おうとする者が登場してきます。小説の中では、対決姿勢を鮮明にした部員よりも、より大切なものを訴えた伏木に軍配があがるのですが、現実世界ではどうなるのでしょう。

第2部幽霊なんて怖くないも続けて読むつもりです。なお、本書の中で重要な役割を果たすフェッセンデンの宇宙(エドモンド・ハミルトン)は、河出書房新社 奇想コレクション」に収録されています。「草創期のSF作家は、ひとりがひとつのジャンル」と思わせてくれるシリーズです。

2016/2