りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

三体0 球状閃電(劉慈欣 リウ・ツーシン)

「三体シリーズ」の前日譚のようなタイトルですが、直接の繋がりはありません。本書で扱われる「球状の雷」

が『三体2 暗黒森林』に登場するひとつの作戦の背景理論になっていることと、本書の後半に登場する若き天才物理学者の丁儀がシリーズに登場するくらいでしょうか。しかし本書を読んで「量子ゴースト艦隊」の意味を理解うることができました。

 

本書の主人公は「三体シリーズ」には登場しない、陳(チェン)という研究者です。彼には、14歳の誕生日の夜に壁を通り抜けて来た球状の雷に両親を奪われた過去がありました。憑かれたように球電の研究を始めた陳は、やがて軍高官を父に持ち、新概念兵器開発センターで雷兵器の開発に邁進する林雲(リン・ユン)と運命の出会いを果たします。そして研究に行き詰まった2人が助力を求めた相手が、世界的に有名な理論物理学者の丁儀(ディン・イー)だったのです。

 

著者は本書において「マクロ電子」なる未知の物質を創造しました。エネルギーあふれる歪んだ空間に空泡として存在する、エネルギー放出の選択性と貫通性を有する、サッカーボール大の電子が球電の正体だというのです。しかもそれは「シュレディンガーの猫」のように、観察者が不在である時に量子状態をとるのです。では球電現象によって量子化したものも、ある確率で存在しているというのでしょうか。そしてその先にあるマクロ原子核とは、どのようなものなのでしょう。

 

兵器開発競争や米中戦争の勃発などのド派手な展開もさることながら、兵器開発に執着する林雲や、まるでシャーロック・ホームズのような丁儀のキャラも楽しめました。とりわけ丁儀は、他の作品にも登場する、著者お気に入りの人物のようです。「三体シリーズ」を読んだ時にこのイメージを持てていたら、もっと楽しめたかもしれません。

 

2023/8