りぼんの読書ノート

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私はスカーレット 上(林真理子)

マーガレット・ミッチェルが亡くなって60年が過ぎて原作の版権が切れた2009年以降、『風と共に去りぬ』の新訳や続編が出版されましたが、本書もその1冊。ただし林さんは終始一人称でスカーレットに語らせることによって、有名な原作を再構築し直しています。

 

著者も「あとがき」で書いていますが、これは難問だったようです。南北戦争に至るまでの歴史的叙述や戦争の進展についてまでスカーレットに語らせると、彼女が理知的になりすぎてしまうようです。また映画では気にならなかった主人公の造形にブレがあることに気付いてしまったとのこと。スカーレットは気が強くて頑固で自己中心的で精神的にも安定していないヒステリックな女性として描かれてしまうのでしょうか。しかし彼女の魅力は「とにかく生き抜いてみせる」との強い意志と行動力であり、そこに揺らぎはありません。

 

上巻はほぼ映画の前半に対応しています。憧れの君アシュレーとメラニーとの婚約が発表された誕生日に、南北戦争開始の知らせが飛び込んでくる劇的な冒頭シーン。腹いせでメラニーの兄チャールズと結婚したものの、たった2カ月で花嫁になり、未亡人になり、母親にまでなってしまったという強烈な展開。レット・バトラーとの焼け落ちるアトランタから脱出して変わり果てた故郷タラで「もう二度と飢えたりしない」と壮絶な決意をする映画前半のラストシーン。

 

映画も何度か見ていますが、前半の「戦前・戦中篇」が素晴らしすぎたせいで、スカーレットが次第に嫌な女になっていく後半の「戦後編」の印象はあまりよくなかったのです。しかし、矛盾を抱えながらも力強いスカーレットの生きざまが強調される後半のほうが、文学的には優れているように思っていました。林真理子さんは、下巻をどのように描いていくのでしょう。楽しみです。

 

2024/2