りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夢胡蝶(今村翔吾)

江代中期の火消たちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の第6巻の舞台は吉原でした。吉原火消は「武家火消」でも「町火消」でもなく、各妓楼が抱えている「店火消」の集合体なんですね。妓楼が焼ければ廓外で無税の臨時営業ができるという「燃えれば儲かる」仕組みの吉原の火消は、他の火消組とはいっさいの関りを持たない数合わせの存在だったようです。

 

しかし妹を吉原の火事で失った吉原火消の矢吉が、吉原の火事から花魁・花菊を救ってくれた彦弥に支援を求めて「ぼろ鳶組」を訪ねてきます。最近吉原では数日おきに不審火があり、その犯人を探し出して欲しいというのです。さっそく源吾は彦弥を中心とするチームを編成して吉原に乗り込むのですが、案の定この一件の裏には幕閣のさる筋も絡んでいたのでした。しかもかつて遊女だった母を持つ彦弥は、花菊の願いを叶えるという無謀な約束をしていたのです。

 

6つの火付けに6つの仕掛けと6人の犯人がいるという、ミステリとしても成立する設定。暗い出生の秘密を持つ真犯人の存在。犯人に真情を捧げてしまった遊女の悲劇。江戸の三代纏番と謳われる「谺・彦弥」と「天蜂・鮎川」が紅蓮の炎に包まれる月下の吉原で繰り広げる大迫力の空中戦。幕閣のさる筋から依頼を受けているという麹町定火消の剣豪・日名塚要人の登場。なかなかに読ませどころの多い作品でした。田沼意次の政道と源吾の火消道の微妙な差異は、後の展開に影響してくるのかもしれません。

 

2024/3