りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

赦しへの四つの道(ル=グィン)

まさか2018年に亡くなったル=グィンさんの新訳、しかも1960年代から70年代にかけて綴られた「ハイニッシュ・ユニバース・シリーズ」の続編を読むことができるとは思ってもいませんでした。本書に収録さえているのは1990年代に書かれた4作であり、短編集『世界の誕生日』に収録された「古い音楽と女奴隷たち」と同じ惑星系を舞台にした姉妹編です。緩やかに繋がる5作品には、かつて奴隷制フェミニズムの問題に鋭く斬り込んでいった鋭さに代わって、問題を解決していくために必要な複眼的な視点が見受けられます。

 

「裏切り」

惑星ウェレルから独立を果たしたイェイオーウェイで孤独に暮らす元教師の老女ヨスが村で出会ったのは、かつて革命の英雄と讃えられた過去を持つ老人アバルカムでした。彼は革命後に起こした汚職事件で失墜し、隠遁者となっていたのです。以前は奴隷の惑星だったイェイオーウェイでは、女性の地位はさらに一段低い奴隷の奴隷だったのですが、2人はある事件をきっかけに打ち解け合うようになっていきます。彼らに平安は訪れるのでしょうか。

 

「赦しの日」

緩やかな宇宙連合エクーメンの使節としてウェレルを訪れた才気煥発な女性ソリーは、女性の地位が低い惑星で完全に浮いてしまいました。ソリ―は愚直な軍人である男性護衛官レイガと反目しあいますが、2人はエクーメンを敵視するテロリスト勢力に誘拐されてしまいます。2人は無事に救出されるのでしょうか。そして全く異なる背景を有する2人は、互いに惹かれ合ってしまうのですが・・。

 

「ア・マン・オブ・ザ・ピープル」

まだイェイオーウェイがウェレルの植民地であった時代、エクーメンの使節ハヴジヴァが2つの惑星にはびこる奴隷制や、根強い男女差別の存在に気付いていく物語。ハヴジヴァは決して超越した裁定者でも中立の観察者でもなく、彼自身が出身地の特殊な慣習の影響を引きずっている人物です。社会悪を声高に批判・告発する前に、自分自身の内面を変革する必要があるというのが、著者の主張なのでしょうか。

 

「ある女の解放」

ウェレルの奴隷の子として生まれた女性ラカムは、逃亡奴隷となって都市でなんとか学問をおさめ、新天地イェイオーウェイへと旅立ちます。やがて彼女は教師となって自由解放運動に身を投じ、自己を確立していく中でエクーメン使節のハヴジヴァと出会うのですが・・。植民地独立が必ずしも奴隷解放を意味せず、奴隷解放が必ずしも女性解放に結びつかない現実世界を、彼女はどのような人生を歩んだのでしょう。彼女の成長過程がそのまま社会状勢の変化となっていて背景を理解しやすい作品なのですが、テーマの重さは他の作品と同様です。

 

2024/3