りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

言の葉の樹(ル=グィン)

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「ハイニッシュ・ユニバース・シリーズ」もこれで9作目になります。翻訳されている作品はここで終了。未翻訳作品があと2作あるようなのですが、今まで出版されていないのですから、今後も期待薄でしょうか。

このシリーズは、遥かな過去に崩壊した宇宙文明の残滓がそれぞれの星で独自の進化発展を遂げた結果として、互いに異星人として再び出会い、対立する価値観の間で葛藤する人々の物語です。

本書の主人公は、大宇宙連合(エクーメン)から惑星アカに派遣された、地球出身の観察官サティ。アカでは独裁企業体が圧制を敷き、急速なエクーメン化を目指すという目的のために、過去の文化は否定され、伝統文化の破壊と、古い象形文字で書かれた本が焚書にされていました。

過去の文化を求めてアカの辺境に旅に出たサティと、政府から派遣された監視官ヤラの対立と交流を通して、物語は進んでいきますサティは幼い頃、一時的に地球を支配した一神教教条主義者(ユニスト)の恐怖政治を体験している一方で、ヤラは伝統的な文化を守る祖父母に育てられ、その弊害を身にしみて知っているという過去を持っているのです。後に上級官僚となっているのです。果たして、対立する価値観の共存は可能なのでしょうか・・。

本書の背景には、中国の文化大革命があるのでしょう。しかしそれだけでなく、明治維新期の日本や、ナチス焚書や、原理主義者の存在も、さらには日に日に滅びつつあるという少数言語の存在も意識しているようです。他者に対する不寛容と否定に陥ることの容易さと怖さは、私たちが常に意識しておくべきことすね。この作品は美しいのですが・・。

2013/7