りぼんの読書ノート

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チンギス紀 17(北方謙三)

著者渾身のライフワークである「大水滸シリーズ」がついに完結。「水滸伝19巻」、「楊令伝15巻」、「岳飛伝17巻」に続く「チンギス紀17巻」ですから、全部で68巻。気の遠くなるようなページ数です。著者は直木賞選考委員を退任した際に「最後の長編に挑みたい」と表明しましたが、それは本シリーズの続編になるのでしょうか。ただ本シリーズには「書き切った感」が強く出ているので、そうではないように思えます。

 

ホラズム征服によって、チンギス個人による版図拡大はほぼ終了しています。最晩年の西夏遠征や金国侵攻は、おまけのようなものでしょう。そしてチンギスは既に自身の死を感じ取っていました。それは幻のような気配を発する黒水城という形をとって現れてきます。かつて故トルケン太后によって築かれた城に集結した首謀者なき反乱軍の中核となったのは、かつての盟友でありライバルでもあったジャムカの遺児マルガーシ。チンギスが傍らに帯同させたのは、幼い頃からの盟友ボオルチュ。自身の生に決着をつけるための戦いにふさわしい舞台が整えらたわけです。

 

志半ばで倒れた宋江、楊令、岳飛らと異なり、「大地を感じ、天を知った」と最後に感じたチンギスは、全てに満足して逝ったようです。著者が「大水滸」を書き切ったとき、最後の主人公となったチンギスは自らの生を生き切ったのでしょう。もはや吹毛剣を継ぐ者など、誰であっても構わないように思えます。ひとつだけ個人的に気になっているのは、50年後の南宋滅亡に立ち会う可能性がある潮州のトーリオです。機会があったら短編にでも登場させて欲しいのですが・・。

 

2024/3