りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

マイ・シスター、シリアルキラー(オインカン・ブレイスウェイト)

ナイジェリアの若い女性作家によるかなり危ないミステリは、私たちがナイジェリアという国に抱くイメージを軽々と覆してくれました。首都ラゴスのアッパーミドル階級に属する若い姉妹は、最新流行のファッションをまとってパーティに興じ、SNSで見栄を張り合っているのです。とはいえ呪術師が登場したり、老首長が公然と女性を賄賂に求めたりするあたりは、やはりアフリカらしい雰囲気も感じさせます。

 

本書は冒頭から異様です。主人公の看護師コレデの悩みは、妹アヨオラが連続殺人鬼だというのですから。誰もが認める美貌を持つ妹は、男たちを魅了してはナイフで殺してしまうサイコパスであり、これでもう3人目。コレデは「また殺しちゃった」と姉に助けを求める妹を守って犯行の隠蔽を続ける一方で、昏睡状態の患者に悩みを打ち明ける日々をおくっていました。しかし今度の妹の恋愛相手は、コレデが密かに思いを寄せていた青年医師のタデだというのです。さりげなく忠告しても、アヨオラに夢中になってしまったタデは聞く耳を持ちません。

 

しかも3人目の被害者の姉がアヨオラを疑って警察に駆け込む一方で、昏睡から覚めた患者がコレデの打ち明け話を記憶していて、姉妹に危機が迫ってきます。そして次の事件が起こるのですが・・。

 

本書の最大の謎は、実は過去にありました。なぜアヨオラはシリアルキラーになってしまったのか。なぜコレデは厄介な妹を守り続けているのか。強権的だった姉妹の父親がなぜ突然亡くなったのか。コミカルな口調で綴られるドタバタ劇の底には、切ない物語が潜んでいたのです。著者は「暗く重い話を書き進めようとしていたのに、意図せずおかしみが溢れ出てしまった」と語っていますが、そのあたりが最も「ナイジェリア的」なところなのかもしれません。

 

2024/3