りぼんの読書ノート

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ばけもの好む中将(瀬川貴次)

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平安時代・王朝ミステリの主人公は、家柄もよく容姿端麗で完璧な貴公子である左近衛中将宣能。しかし彼には「ばけもの好き」という変わった趣味があったのです。しかしこういう人物の一人称では物語が膨らまないのはシャーロック・ホームズ以来の伝統です。本書の語り手は、なぜか中将宣能に気に入られてしまった、12人もの異母姉がいる中流貴族の宗孝です。

4つの短編からなる構成ですが、そのいずれにも宗孝の異母姉たちがからんでいる点が特徴ですね。帝の愛妾に取り立てられた「梨壺の更衣」の8姉。その姉に小宰相として使える11姉。学者と結婚した5姉。身分の低い武士と駆け落ち同然の結婚した6姉。そして家を飛び出して消息不明になっている10姉。他の姉君たちは未登場ですが、続編もあるようですからいずれ出番が来るのかもしれません。

御所内のうら寂しい館に滴り落ちる生き血。洛外の稲荷神社に出没する三本角の鬼女。葵祭の前夜に4つ目の方相氏を連れて現れた、顔面の半分が崩れた斎王。筒井の周りで遊ぶ幼い姉妹の前に現れた不思議な少年。異様な話の背景には人為的な裏があることを、冷静な中将宣能は見抜いていくのですが、ある意味では人の行うはかりごとのほうが現実的に怖いのです。

ところで中将宣能にはある種の超能力を持つ妹「初草の君」がいて、それを超える怪異を見せて妹を安心させてあげたいという兄心が、彼を怪異好みにしてしまったようです。名門貴族の娘で将来の皇妃候補である「初草の君」が純情な宗孝になついてしまっていることを、中将宣能の叔母で後宮の権力者である弘徽殿の女御は苦々しく思っているようなのですが・・。

軽いけれどもhttp://blogs.yahoo.co.jp/wakiabc21/37114477.html伊勢物語をモチーフにした楽しい物語でした。続編では、謎めいた10姉が中将宣能と絡んでいく中で、相変わらず宗孝が困り果てるのかもしれません。それとも宮中での陰謀がエスカレートしていくのでしょうか。

2019/4