りぼんの読書ノート

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月夜彦(堀川アサコ)

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平安期の闇を描いた王朝ダークファンタジーです。

 

主人公は、零落した母から自身が右大臣の落胤と聞かされて育った小槌丸。いっぱしの小悪党になっていた小槌丸は、貴族として優雅に暮らしている異母兄の月夜彦を殺してなり替わりたいという、ヤバイ望みを持っていました。当時京の町を恐れさせていた、貴族の姫君を襲って食らう殺人鬼と間違われて逃れた先は、どのような望みも叶える代わりに最も大切なモノを奪うという、奇怪な狼神が住まう魔所だったのです。彼は咄嗟に、何を願ってしまったのでしょう。

 

貴人である月夜彦の裏の顔。人非人の大悪党である近江の湖賊が抱く野望。しとやかな仮面の下に姫君が隠す淫蕩な本性。宮廷の噂話として伝わる数々の忌まわしい事件。執拗に小槌丸を付け狙う検非違使の執念。ダークな存在が次々と登場するなかで、小槌丸が密かに恋い慕う異母姉の千名姫は、天子の子を宿して不可侵の存在に想えたのですが・・。

 

純粋で悲壮で邪悪な真相は、十分に意表を衝いてくれました。透徹した視点という共通点はあるものの、著者が得意とする、どこかほのぼの感が漂うファンタジーとは、一線を画した作品だったのです。

 

2019/8