りぼんの読書ノート

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半分のぼった黄色い太陽(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)

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タイトルの意味は、1967年から3年間だけ存在したビアフラ共和国の国旗のデザインです。この国家は、数百万人が飢餓で亡くなったとされる絶望的な戦争によって滅び去り、現在はナイジェリアの一部となっています。もともと部族や宗教が異なる北部(ハウサ/フラニ)、東南部(ヨルバ)、西南部(イボ)の3つの地域をひとつの国家として独立させたことに無理があったわけですが、本書のテーマは政治ではありません。イボ族の有力者の娘として生まれた双子姉妹の視点を通じて、ビアフラ戦争の時代に生きた人々の姿を描き出すことにあるのです。 

 

1960年代前半の章では、独立後の興奮に沸きながらも混乱しているナイジェリアでの、オランナとカイネネの姉妹の恋愛が描かます。美しいオランナはロンドン留学から帰国して、進歩的な大学講師オデニボと半同棲していますが、旧弊なオデニボの母は息子を普通の娘と結婚させようとしているようです。その一方で硬派ながらシャイな姉カイネネは、白人ジャーナリストのリチャードに一目惚れされて対応に苦慮しています。オデニボが雇ったハウスボーイの少年ウグウが、もうひとりの視点人物として登場しますが、彼はイボ族の庶民を代表しているのでしょう。 

 

しかし1969年代後半の章になって、物語の様相は一変してしまいます。クーデター、イボ族の大統領暗殺とイボ族虐殺、ビアフラ独立、戦争による難民化、飢餓と敗戦という激動の中で、2組の男女はどのように生きたのか。途中で一時的に時制が戻るのは、ある謎を解明するためですが、そこは本筋ではありません。 

 

人物や物事を一つの側面からのみ描く「シングルストーリー」の危険性を説いている著者は、戦争の中でも多様な人々が多様な生活をしていることを描くために、2組の男女の恋愛模様を物語のメインテーマとしたわけです。ちなみにリチャードのモデルはフォーサイスと言われているようですが、どうなのでしょうね。リチャードが後に著したとされる「私たちが死んだとき世界は沈黙していた」の断章が、作中作として随所に挿入されているのが効果的です。 

 

2020/3