りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

最後のライオニ(キム・チョヨプほか)

コロナ禍の出口が見えなかった2020年9月に出版された本書は、ずばりバンデミックをテーマとする韓国SF作家たちの競作です。

 

「最後のライオニ(キム・チョヨプ)」

人類が感染症で絶滅して機械が支配する惑星の探査を命じられた女性は、なぜか彼女を慕ってくるロボットに出逢います。彼らが語る哀しい物語は、実はクローンである主人公の一族の起源とも深い関りがあったのでした。『わたしたちが光の速さで進めないなら』の著者は「絶望の中にあっても自分の居場所を守り抜く勇敢な人たちを思いながら」本書を綴ったとのことです。

 

「死んだ鯨から来た人々(デュナ)」

灼熱の昼大陸と極寒の夜大陸しかない惑星に移住した人びとは、海洋を漂う超巨大鯨(実は複雑な生命体コロニー)の上に都市を築きあげました。しかし人類こそが、この惑星の生命体にとっての未知のウィルスでしかなかったのです。

 

「ミジョンの未定の箱(チョン・ソヨン)」

人気が絶えた街で主人公が拾った不思議な金属の箱は、タイムマシンだったのでしょうか。それとも過去の記憶を走馬灯のように蘇らせるものだったのでしょうか。この作品で引用された「もし本当に厳しい状況になったとき、戻りたい瞬間は?」とは実際の感染症対策本部長が語った言葉だそうです。

 

「あの箱(キム・イファン)」

感染症の蔓延によって孤立化が進んだ世界でも、他者との関りなくしては人は生きていけないのです。AIの仲立ちで同居を決めたカップルの勇気に拍手を!

 

「チャカタパの熱望で(ペ・ミョンフン)」

違和感を覚える言葉遣いは、感染症の流行後に唾を飛ばす激音や破裂音の使用が禁止され、「チャカタパ」が消滅した世界だから。過去のフィルムを研究する主人公は、禁じられた言葉を学ぶ俳優に不思議な魅力を感じてしまいます。

 

「虫の竜巻(イ・ジョンサン)」

温暖化によって未知のバクテリアや病原菌が復活し、あちこちで爆発的に発生する虫たちが新しい病気を伝播するようになった世界。それでも人々は他者との繋がりを求めます。ネットで出会った相手に恋をして、結婚するために飛行場へと向かうのですが・・。近未来のマリッジブルー小説です。

 

2024/3