りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017/4 岳飛伝 17(北方謙三)

昨年出版された森見さんと万城目さんの新作を、ほぼ同時に読みました。個人的には、京都にこだわり続ける森見さんのほうが、物語世界を広げている万城目さんよりも好みなのですが、今回は万城目さんのほうが良かったですね。作家となる決意を抱くに至る作品というものは、概ね素晴らしいのです。

1位は、北方謙三さんが足掛け17年渡って全51巻に渡って書き続けた「大水滸」の完結編にさせていただきます。

1.岳飛伝 17(北方謙三)
水滸伝(19巻)』、『楊令伝(15巻)』、『岳飛伝(17巻)』と、全51巻に渡る「大水滸」が、ついに完結しました。国家という概念を超えて下部構造を変革した「梁山泊」の大構想は、南宋と金の安定期のみならず、将来のモンゴルによる支配ですら、その延長線上に飲み込んでしまったようです。モンゴルへと向かった胡土児を中心に据えた新しい物語を期待しているのは、私だけではないでしょう。

2.バベル九朔(万城目学)
作家志望の夢を抱きながら、雑居ビルの管理人を務めている主人公の前に現れたのは、全身黒ずくめの「カラス女」。彼女に追われるようにして飛び込んだ先は、「夢」と「無駄」によって支えられている異界だったのです。その世界で主人公が下した決断とは、どのようなものだったのでしょう。作家になりたい夢を抱えて、賞も取れず公表もされない無駄な小説を書き続けていた、デビュー前の著者の経歴が結実した作品です。

3.夜行(森見登美彦)
10年前の鞍馬の火祭の夜に失踪した女性のクラスメイトであった5人の男女が、京都で再会。実は5人とも、「無事に戻ってこられなかったかもしれない旅」を体験していたのです。しかもそこには、「夜行」と題された謎めいた銅版画の連作が絡んでいました。異界とはどこなのか。失踪とは何のことなのか。軽妙な語り口を抑えた、静謐なファンタジーです。

4.屋根裏の仏さま(ジュリー・オオツカ)
戦前の日本からアメリカに移住した男たちに嫁ぐため、夫となる人の写真だけを頼りに海を渡った女たちの物語が、「わたしたち」という集合代名詞を用いて綴られていきます。しかし多くの苦労も、ささやかな幸福も長くは続きませんでした。日米開戦と同時に収容所に送られて、忘れ去られた女たちの物語です。





2017/4/29