りぼんの読書ノート

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項羽と劉邦(司馬遼太郎)

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始皇帝没後の大乱を制して漢帝国を樹立する劉邦の物語は『史記』の白眉でしょう。日本でも古くから親しまれていたことは、「四面楚歌」、「国士無双」、「背水の陣」、「左遷」、「将に将たり」、「雌雄を決す」など、『史記』を出展とする成語が数多く伝わっていることからも理解できます。

本書は大家による漢帝国の成立史ですが、本書を貫くキーワードは「人望」ですね。すなわち、沛のごろつき上がりの劉邦が、武将としての能力で彼を遥かに上まわる楚の猛将・項羽に百敗しながらも、なぜ垓下で最後の勝利を掴むことが出来たのか。その理由を、劉邦の「ちょっと類のない稀有な可愛気」に求めているのです。

一般に『史記』全体を貫く思想は「天道是か非か」であると言われていますので、劉邦の勝因を「人望」に求める解釈は、あまりに「日本的」なのかもしれません。司馬さん得意の「戦国武将物語」のように思えてしまう部分も多いのです。

それでも広大な中原の支配を争うスケールの大きさや、食料を求めて勢力の伸張が激しく変動するダイナミックさは、しっかり伝わってきます。数十万人の戦死者が出る戦闘なんて、想像の域を超えてしまってますが・・。

もちろん物語的に面白いことは言うまでもないでしょう。内政の蕭何、参謀の張良、軍団長の韓信をはじめとして、陳平、夏侯嬰、周渤、樊噲、曹参、彭越、范増、章邯らの武将、知将が凌ぎを削る戦略、戦闘の面白さは、『三国志』と双璧。

ちょっと気になったのは、虞姫について。「湯上りに身体を拭く必要がないほど水を弾く」という、もはやこの世のものではないような描写だったとの記憶があったのですが、そんな場面はありませんでした。きっと、別の本で読んだ記憶なんだろうな。でも、どの本なんだろう・・(謎)。

2011/3再読