りぼんの読書ノート

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蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ二 囚われの王狼(ケン・リュウ)

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紙の動物園で鮮烈な日本デビューを果たした、アジア的感覚を持つSF作家による、項羽と劉邦を下敷きにしたハイ・ファンタジーです。巻ノ一 諸王の誉れと本書とで、とりあえずの完結ですが、続編もあるとのこと。

ザナ帝国(秦)打倒の戦いの中で出会って永遠の友情を誓ったクニ・ガル(劉邦)と、マタ・ジンドゥ(項羽)でしたが、それは長続きしませんでした。鬼神のごとき活躍で都市を制圧していき、ついにザナ帝国の主力軍を葬ったマタに対して、奇策を弄したクニは帝国の首都にいち早く乗り込んでザナ皇帝を捕獲。しかし、クニに裏切られたと思い込んだマタは、クニと袂を分かち覇王として即位することを宣言するのです。

そして、「鴻門の会」から「覇王別妃』へと至る「楚漢戦争」をベースとする物語が展開されるのですが、もちろんオリジナルとは一味も二味も異なっています。ひとつめのポイントは、まるで「ギリシャ神話」を思わせる神々の存在。それぞれ7か国の守護神である7柱の神々は、それぞれ人間界に「お気に入り」がいるんですね。クニ派とマタ派がいるのは当然ですが、ある女性に特別の関心を抱く神もいたりします。人間に示すのは予言ではなくて、暗示にすぎない点は、やはり東洋的。

もうひとつのポイントは、女性の活躍です。前巻でもクニの妻・ルアンや、マタを罠にかけようとしたキコウミ王女の存在は目立ちましたが、本巻では、なんと「国士無双の将軍」である韓信を女性にしてしまいました。浮浪児に身を落とし女子であることを隠していた孤児のギンは、軍師ルアン(張良)に見出されて、女性を活用した戦略を用いるのです。「四面楚歌」などは、まるで楚出身の女性による「リリー・マルレーン」。

劉邦亡き後の漢では皇后・呂后による簒奪と粛清が起きるのですが、このシリーズではクニの子供たち(とりわけ長女セラ)が活躍する物語になるとのこと。10月に出版予定というシリーズ第3弾を楽しみに待ちましょう。

2016/10