りぼんの読書ノート

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西行(白洲正子)

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1190年2月に73歳で亡くなった西行が生きたのは、保元・平治の乱から平家滅亡に至る平安末期の動乱の時代。23歳で出家した後、諸所に草庵を営みつつ、しばしば諸国を巡る漂泊の旅に出た西行が見つめ続けたものは諸行無常の乱世だけだったのでしょうか。

古来、西行という人物に対しては、膨大な考証や伝説が語られています。しかし著者は、それでもなお、多くの謎に満ちた人物だというのです。西行という人物の本質は、資料の中からは浮かび上がっては来ないというのです。

著者が西行という人物に迫るために行ったのは、漂泊の足跡を実際にたどることでした。西行ゆかりの風物風土の中に身を置いて、西行の歌を深く読み込むことで、西行という人間の本質に迫ろうとしたのです。そしてそれは、成功しているように思えるのです。

西行が、一回り年上で身分違いの待賢門院璋子に想いを寄せていたことは広く知られています。大河ドラマでは、璋子への恋が結ばれずに自暴自棄になって出家したように描かれたほど。そんな後年のTVドラマなど意識したはずもありませんが、著者は、「西行の出家の理由なんぞどうでも良い。それよりもその恋が西行の詩歌に与えた影響のほうが気になる」と述べています。さらには仏法思想ですら、切って捨てるという大胆さ。

そこから浮かび上がってきたのは、日本の山河に触発されて日本人の魂と祈りを歌に込めたという、多感で奔放な人間像でした。著者の直観が生み出した「西行像」にすぎないのかもしれませんが、読者の胸に落ちる西行像であることには間違いありません。

2016/10