主人公の和美は、特殊な放射線治療を選択して、九州最南端のウィークリーマンションからオンコロジー・センターに通っています。毎日2グレイ、最終的には5グレイの放射線を照射され、車酔いのような症状に苦しみながら、書店では震災関連の本を目にし、津波と原発事故の推移を報じるテレビ映像にも見入る日々。1グレイの放射線はネズミ100匹の致死量と聞かされてからは、累々と増え続けるネズミの死骸をじゃらじゃら引きずって生きるという感覚にも襲われています。
一方で、「焼島」という活火山が噴火を繰り返す九州の町での生活は、生命を宿す子宮の病と大地の荒々しいエネルギーが重なり合っていくイメージを、和美に植え付けていきます。さらに、やはり闘病中の元同僚が語る、治療中に無量大数に至る超大数の単位を数え続けるという言葉が、和美の抱くイメージを宇宙的な規模にまで高めていくようです。
「この小っちゃな体の中のがん細胞をきっかけに、地球から宇宙までを見通す視点を持てたら、書く喜びはあるなと思った」と語る著者の独特の世界観が凝縮された作品です。「永遠は無残」であり、「どのように生きてもわたしたちは、命の原郷の「焼野まで」行かなければならない」という言葉の重さを、読者は感じることができるはずです。
2016/10