りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016/10 黒い本(オルハン・パムク)

ケン・リュウさんがアジア的感覚で紡ぎ出す「シルクパンクSF」は面白いのですが、どうしても、下敷きである『項羽と劉邦』と比較してしまいます。オリジナルの物語を知らない人の方が楽しめるかもしれません。「その後」の物語となる「第3部」に期待しましょう。本国での出版から四半世紀後に翻訳された、オルハン・パムクの『黒い本』は、やはりノーベル賞にふさわしい作品でした。
1.黒い本(オルハン・パムク)
「失踪した妻を探して迷宮を彷徨う青年」というプロットには、村上春樹作品との共通点を感じますが、主題はまるで異なっています。「損なわれたものの回復」を試みる村上作品に対して、「次第に自分を見失っていく」パムク作品は、やはり迷宮都市イスタンブールが生み出したものなのでしょう。ノーベル賞受賞作家による重層的な作品です。

2.彼女に関する十二章(中島京子)
60年前のベストセラーであった伊藤整のエッセイとシンクロして展開されるのは、更年期を意識し始めた主人公の主婦が、「平凡な人生」の意味を再認識する物語でした。「平凡」とは、さまざまな重大事を乗り越えてきたからこそ得られる、貴重なものだったのですね。

3.焼野まで(村田喜代子)
大震災直後に子宮ガンを告知された著者が、分身のような女性を主人公に据えて生命の根源を問いかけさせた作品です。「福島で放射能被害が起きている中で放射線治療を受ける」ことへの違和感が、活火山が噴火を繰り返す九州の地で解消されていくようです。



2016/10/30