りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010/3 図書館 愛書家の楽園(アルベルト・マングェル)

3月には、アイルランド文学を3冊読みました。想像を絶する極貧の中で育った少年がアメリカに渡って教師となる、自伝的小説の『アンジェラの灰』と『アンジェラの祈り』に、ケルト文化と伝承が今も息づいている現代アイルランドの田舎を舞台にした短編集の『青い野を歩く』。

極貧の少年時代との意味では、ドミニカ移民の著者による『ハイウェイとゴミ溜め』も強烈な印象を残してくれましたが、1位には古今東西の膨大な知識を縦横に駆使して綴られたアルベルト・マングェルの図書館論を選びましょう。オルハン・パムクの新刊を物足りなく感じたのは、期待が大きすぎたせいでしょうか。
1.図書館 愛書家の楽園(アルベルト・マングェル)
ボルヘスの高弟でもある著者が、その知識を縦横無尽に用いて、実在あるいは架空の図書館について語った本書は、書物と知識の迷宮に読者を誘い込んでくれます。図書館とは、「記憶」のような「混乱」に「秩序」をもたらそうとする不可能な試みであり、「空間の征服」と「時間の超越」をめざすもの・・となると、まるで「宇宙」そのもの!

2.アンジェラの灰(フランク・マコート)
「もちろん惨めな子供時代だった。だが、幸せな子供時代なんて語る価値もない」。1930年代、貧困のアイルランドで逞しく育った著者の回想小説ですが、その貧困ぶりがハンパじゃありません。甲斐性なしで飲んだくれの父親。打ちのめされ暖炉のわきでうめく信心深い母親。偉ぶった司祭。生徒いじめの教師。イギリス人が800年ものあいだ続けたひどい仕打ちの数々・・。でも主人公は「作家の目を持つ少年」に育っていくんです。

3.ロシヤにおける広瀬武夫(島田謹二)
坂の上の雲』のドラマ化で、秋山真之の友人として脚光を浴びている広瀬武夫海軍中佐のロシア留学時代を、2000通もの手紙や資料から再現した作品です。武骨な武人ながら、「徳あり、才あり、風流あり」の明治紳士でもあった好漢・広瀬武夫という人物が人間として成長していく様子は、もはや『三四郎』を思わせてくれる「文学」です。



2010/3/31記