りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ハッピー・リタイアメント(浅田次郎)

イメージ 1

軍隊をモデルにした効率的な組織モデルは、トップを頂点としてボトムが広がる三角形で、江戸時代の幕藩体制のように終身雇用を前提とする組織は四角形に例えられるそうです。効率性と安定性を満たそうとすると、三角形の数を増やしていくしかないのですが、低成長でそれも無理となると、解決策はただひとつ。「天下り」なんですね。要は、三角形からはみ出した人を、現役メンバーの税金で支える仕組み。

ノンキャリアの財務官僚と愚直な自衛官が、突如、再就職先として斡旋された組織は、業務はゼロで高給が保証される典型的な天下り組織でした。なんせ、とっくに時効で踏み倒された借金を「管理する」(回収ではありません)だけの組織なんですから。

ところが、新入りのオヤジ2人が「まだ燃え尽きていない」と察知した秘書・立花葵は「仕事をしよう」と持ちかけます。もちろん「仕事」は借金回収。法的には返済義務もなくなった借金を取り立てに行くのですが、意外にも「返す」という人も現れます。人生の後半で成功した人が、若い頃に踏み倒した借金を気に病んでいたりするんですね。

でも3人組みの「仕事」は「組織」には内緒のものでした。回収した資金を山分けして「ハッピーリタイアメント」をエンジョイしようというのです。面白いことに、3人とも罪悪感はゼロなのです。より大きな怒りが、「天下り」という「巨悪」に向かっているのですから。果たして、そんな企てがうまくいくものなのでしょうか・・。

とある金融機関の整理部の方が、浅田さんの30年前の借金を取り立てに来たとの「実話」がきっかけになって生まれた小説とのことですが、ノンキャリアの仕事人間がおいしい天下り先に来て違和感を感じる小説に仕上げてしまうあたりは、さすがです。ところで、主人公のひとりである立花葵は40代後半との設定です。昨今の「いい女」は、その年代に集中しているとのことですよ。^^

2010/3