りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

AX(伊坂幸太郎)

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2018年の本屋大賞ノミネート作品です。グラスホッパーマリアビートルに続く「殺し屋シリーズ」ですが、各作品とも独立した内容であり、前作との登場人物リンクが多少ある程度。

本書の主人公は「兜」という恐妻家の殺し屋。凄腕なのですが、家では妻に頭が上がらないどころか、地雷を踏まないように「模範問答集」を記録しておくほど。「何が食べたい」と尋ねられて「何でもいい」はありえないのは当然として、妻の気分を読みながら回答しなくてはならないのです。殺し屋の仕事で帰りが遅くなったときには、音で妻を起こさないよう魚肉ソーセージを食べるという奥義に至っては、涙ぐましいですね。

「兜」は妻と一人息子を大切にしながら、依頼された標的や思いがけない暗殺者と対峙していくのですが、彼の意識の根底にあるのは「他者の幸福を奪うものは、自ら幸福になれるのか」との自問自答にほかなりません。殺し屋家業から足を洗いたいと思い続け、ついに実行に移したものの、それは巨大な組織を敵に回すことだったのです。はたして彼の振るう「蟷螂の斧」は、組織を傷つけることができるのでしょうか。著者が得意とする伏線回収のテクニックが冴えわたる作品でした。

「殺し屋シリーズ」の3作とも「バッタ」、「カブトムシ」、「カマキリ」という、虫と縁があるタイトルなのですが、どのような意味が込められているのでしょう。もっともらしい解釈はいくらでも可能なのですが、著者の真意を聞いてみたいところです。

2019/3