りぼんの読書ノート

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ホワイトラビット(伊坂幸太郎)

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著者自身が「籠城物の決定版」という本書は、小説内の警察はもとより読者もだましてしまうミステリに仕上がっています。

表層的な物語はシンプルです。誘拐を生業とする犯罪グループがオリオオリオという男を見つけ出す必要があり、仲間のひとりである兎田に本気になってもらうために兎田の妻を誘拐。オリオオリオの足跡をたどった兎田が成り行きで、ある家族を人質にとった籠城事件を起こしてしまうというもの。しかし人質にされた息子の電話で警察が動き出した時にはすでに、兎田の妻の救出という別の作戦が始まっていたのでした。時間軸のずらし方が見事です。

登場人物たちが前半で果たしていた役割が、後半の謎解き部分になると一転してしまいます。初期のアヒルと鴨のコインロッカー以来、著者が得意とするテクニックですね。なぜかその家に居合わせて人質のひとりとなっていた、伊坂作品常連の泥棒「黒沢」が重要な役割を果たします。

本書には「レ・ミゼラブル」と「オリオン座」の薀蓄が散りばめられていて、物語の進展の上でも重要な伏線になっています。冒頭に置かれた「はいり直すには、まずここから出なくてならならいのですわい」というレ・ミゼラブル」からの引用も、重要な伏線なのでした。

2019/3