りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ジャイロスコープ(伊坂幸太郎)

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ジャイロスコープとは、三つの輪で支えられて自由に向きを変えられるコマのこと。軸はぶれないながらも、意外な動きをすることから、本書のタイトルに使われたのでしょう。7つの短編が収録された短編小説集です。

「浜田青年ホントスカ」
家出をした浜田青年は、スーパー駐車場のプレハブ小屋で「相談屋」の仕事の手伝いを頼まれます。実は「相談屋」は浜田を隠しておく依頼を受けていたのですが、その青年も浜田ではなかったのです。彼もまた、とんでもない仕事の依頼を受けていたのですが・・。

「ギア」
世紀末的な荒野を走るワゴン車に乗り合わせた互いに見知らぬ者たちは、互いに殺戮ゲームを開始するのですが、世界はそんな状況ではなかったのです。会話に登場した、1匹いれば必ず10匹いるというセミンゴという怪獣的な動物が、人類を危機に陥れていたのです。

「二月下旬から三月上旬」
主人公の慈郎が綴る、幼馴染の坂本ジョンとの交友録。現在の慈郎が介護ベッドに横たわる老人であることがわかってくると、社会人となってからは毎年2月下旬から3月上旬に会っていたというジョンの存在も疑われてくるのですが・・。時間経過を操作する著者の企みと、数々のエピソードにこめられた批判精神を楽しめる作品です。

「if」
事なかれ的な人生をおくっていたことを後悔している山本は、バスジャックにあった車内で勇敢な行動を採るべきかどうか悩みます。実は山本も犯人も、20年前に起きた事件を後悔していたのです。

「一人では無理がある」
長い歴史を持つ巨大な非営利団体に属する御子柴の仕事は、トナカイと関係がありました。その巨大組織の正体とは?

「彗星さんたち」
わずか7分間で新幹線の発車準備を整える清掃係の人たちの仕事ぶりは驚異的であり、これこそが分刻みのダイヤを支えていることを再認識できる作品です。パウエル元国務長官の著書を愛読し、この仕事は「できることをちゃんとすることだ」と、新人でシングルマザーの佳代を教育する嶋田先輩がいいですね。

「後ろの声がうるさい」
今までの登場人物が少しずつ登場する、エピローグ的な作品です。新幹線に乗っていた浜田に聞こえてきたのは、後ろの席の2人の男性の会話。互いに正体を明かさずに会話を続ける2人は、複雑に関係に陥ってしまった親子だったのですが・・。新幹線の清掃員が見つけた手紙には、父親が全てを知っていたことが記されていたのです。

2016/9