りぼんの読書ノート

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吉野太平記(武内涼)

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室町時代、吉野に籠る後南朝の残党と、京都の天皇・公家勢力と、室町幕府とが三つ巴の闘いを繰り広げる、痛快な忍者小説です。

南朝正統の血を引く自天皇を奉じ、地方の反幕府勢力を率いて天下大乱を企てるのは、楠木正成の末裔であり超絶の忍者である楠木不雪。関白・日野勝光後南朝との和解の道筋を探るために送り出した実妹・幸子を護衛するのは、天皇忍軍の頭となった村雲兵庫。室町幕府から後南朝を滅亡させる密命を帯びた戸隠忍人軍の赤童子三者三つ巴の闘いの結果は、どうなっていくのでしょう。

本書に深みを与えているのは、実は女性であったとされる自天皇と日野幸子が和平を願って心を通わせる場面です。妥協を許さない政治的事情と、忍者同志の苛烈な闘いは、彼女たちの願いを踏みにじってしまうのですが・・。

応仁の乱前夜という歴史的背景の中で、実在の人物を多数配して虚実皮膜の世界を作り上げたのは、著者の力量なのでしょう。2016年版『この時代小説がすごい』の文庫書き下ろし部門で第1位を獲得しただけのことはありますね、もちろん忍者同志の因縁や、なかなか画期的な忍びの技を披露しあう戦闘シーンも楽しめます。

2016/9