りぼんの読書ノート

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柳生十兵衛死す(山田風太郎)

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冒頭から、あの柳生十兵衛が何者かに殺害されてしまっています。しかも開かぬはずの方の眼が、かっと見開いている不思議な姿で。いったい、天下無敵の大剣豪に何が起こったのでしょうか。

柳生十兵衛三厳というと江戸時代初期の剣豪ですが、250年前の室町時代に、柳生十兵衛満厳という先祖がいたとの設定で、この2人が時空を超えて闘うというのですから、まさに奇想天外な伝奇小説。

しかも、この2人を取り巻く環境が微妙に似ているのです。室町時代の満厳と行動を共にするのは世阿弥に一休少年。敵対するのは天皇位を狙う足利義満に、「陰流」の発明者で十兵衛の師の愛洲移香斎。悲運の美女は一休の若き母・愛宕。江戸時代の三厳の友人は世阿弥の子孫の能楽師・金春竹阿弥に、弟子の金春七郎。敵対するのは反幕を狙う後水尾法王と由比正雪。悲運の美女は前帝・月ノ輪の宮。

世阿弥が大成した「能」は、演技者の「幽玄」をもって、「夢幻の妙」の世界を作り上げるものですが、なんとそれはタイムマシンの機能を持つと言うんですね。かくして室町時代の満厳と世阿弥、江戸時代の三厳と竹阿弥の入れ替わりが起こり、それぞれ異なる時代に起きた天下大乱の陰謀を未然に防ぐのですが、それだけでは済みませんでした。果たして、冒頭の死体は誰で、誰によって斬られたのか・・。

風太郎さんが70歳を超えて書き上げた、「忍法帖シリーズ」の最後を飾る作品です。しかも『魔界転生』と『柳生忍法帖』に続く、三度目の柳生十兵衛もの。少々淡白にも感じますが、それもまた枯れた味というものでしょう。

2011/8