りぼんの読書ノート

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セリーナ(ロン・ラッシュ)

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大恐慌後のアメリカ。最貧地域であったノースカロライナ山奥の森林地帯を舞台に繰り広げられる、稀代の悪女の物語。解説者は主人公を「マクベス夫人」に例えているほど。

製材会社の若き経営者であるペンバートンの新妻として、この地にやってきたセリーナの登場シーンが、まず印象的です。夫が孕ませていた地元の少女レイチェルの父親が血相を変えて詰め寄って来ると、夫に決闘をけしかけて殺害させてしまうのですから。

魅力的なセリーナは周囲の人物を次々と影響下に置いていきます。夫の共同経営者たちを操り、反抗するものは容赦なく排除し、絶え間なく訪れる失業者たちを低賃金でこき使い、夫の事業拡大に努めるのです。製材会社の保有地が国立公園用地として買収や収容の対象とされても、彼女は動じません。先に伐採しつくしてハゲ山を売ればいいというのです。

それだけではありません。彼女の野望は、無尽蔵とも思えるブラジルの熱帯雨林を支配すること。彼女にとっては、時に弱さを見せる夫ですら踏み台でしかなかったのです。セリーナの冷徹な策謀は、ついに実現したかと思えたのですが・・。

当時の山地民の風俗や心情、アパラチア山脈大自然の描写も楽しめる作品です。そしてセリーナという女性の造形が、それらと見事にマッチしているのです。

2016/9