りぼんの読書ノート

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総選挙ホテル(桂望実)

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県庁の星の著者による「お仕事小説」ですが、かなりヒネリが利いています。倒産間近の中堅ホテルの社長に就任したのは、大学で長年心理学を教えていた変人教授。彼が打ち出した案は「従業員総選挙」だったのです。

これは一面では、約20%の従業員を退職させるためのリストラ策。誰がのこるべきかを従業員自身に決めさせるというアイデアは、ここまでドラスティックではないものの「360度評価」という形で既に存在しています。しかしこの総選挙では、配置転換や管理職の投票も行われたのです。「やる気」を出させるための荒療治は、効果を発揮するのでしょうか。

物語は、新社長の方針に戸惑う支配人と、配置転換された4人の従業員にスポットライトをあてて進んでいきます。企画部から料飲部となった中堅男性。調理課からベルボーイとなったイケメン青年。ホテル内のフラワー課からフロントとなった若い女性。そしてなんと清掃パートからウェディング部門となった中年おばさん。

結局のところ手法はどうあれ、スタッフが指示を待つのではなく、自分で判断して動いていく組織を作っていくことが重要なのでしょう。トップの指導力と過剰な管理は違うのであり、締め付けで業績を伸ばしても、そこには限界があるのです。完璧でないおじさんや、女性恐怖症になった青年や、気の弱い女性や、おせっかいのおばさんたちが本気になった頃、支配人も次第に熱くなっていくのです。

もちろん本書のようなハッピーエンドは、稀なケースです。実際の所、20%も要員カットになってサービスの質を落とさないことなど、ほとんど不可能なのですから。でもせめて小説の中くらいは、夢に溢れていて欲しいものなのです。

2017/8