『紙の動物園』や『母の記憶に』などのSFを欧米で評価されている編者が、もはや欧米と遜色ない現代中国SFの最前線の作品を紹介するアンソロジーです。中国的な題材がむしろ新鮮に感じますが、政治批判として受け取るのは「正しい読み方」ではないようです。
「麗江の魚(陳楸帆)」
生物時計と松果腺の受容体操作によって、老化と精神的な時間の流れを遅くする技術が実用化された世界。富裕層しか享受できない特権ですが、異なる時間の流れを生きる人間からは、風景が流れるように見えるのです。
生物時計と松果腺の受容体操作によって、老化と精神的な時間の流れを遅くする技術が実用化された世界。富裕層しか享受できない特権ですが、異なる時間の流れを生きる人間からは、風景が流れるように見えるのです。
「童童の夏(夏笳)」
日本より急速に少子高齢化が進行している中国では、「介護者不足問題」を遠隔操作ロボットが担うのかもしれません。他者を介護することが可能になった高齢者たちは、「解放」を手にするのです。
日本より急速に少子高齢化が進行している中国では、「介護者不足問題」を遠隔操作ロボットが担うのかもしれません。他者を介護することが可能になった高齢者たちは、「解放」を手にするのです。
「龍馬夜行(夏笳)」
人類が滅亡した世界。フランスで製造されて中国に送られた龍馬が、こうもりと語り合いながら、海を超えてナントへと帰り着く情景が美しい作品です。
人類が滅亡した世界。フランスで製造されて中国に送られた龍馬が、こうもりと語り合いながら、海を超えてナントへと帰り着く情景が美しい作品です。
「沈黙都市(馬伯庸)」
禁止語指定を飛び越えて、健全語のみで会話をするよう強制されるようになった検閲社会。当局に隠れて自由な会話を楽しむ反乱者たちも、やがては摘発されてしまいます。テクノロジーが進歩した「オーウェル的ディストピア」では避難場所などないのでしょうか。
禁止語指定を飛び越えて、健全語のみで会話をするよう強制されるようになった検閲社会。当局に隠れて自由な会話を楽しむ反乱者たちも、やがては摘発されてしまいます。テクノロジーが進歩した「オーウェル的ディストピア」では避難場所などないのでしょうか。
「折りたたみ北京(郝景芳)」
貧富の差によって3層に分割された北京。密かに第3層から第1層に移動した老人は、何を見たのでしょう。北京がゆっくりと折りたたまれていく描写は、ハリウッド映画向きかもしれません。
貧富の差によって3層に分割された北京。密かに第3層から第1層に移動した老人は、何を見たのでしょう。北京がゆっくりと折りたたまれていく描写は、ハリウッド映画向きかもしれません。
「コールガール(糖匪)」
少女娼婦が売るものは電脳世界の物語。大きすぎる物語を求める客には、そこに行ってもらうのが手早いのですが、戻れなくなるかもしれません。
少女娼婦が売るものは電脳世界の物語。大きすぎる物語を求める客には、そこに行ってもらうのが手早いのですが、戻れなくなるかもしれません。
「蛍火の墓(程婧波)」
夏への扉を抜けて、宇宙の無重力都市に到着した人類を描いた魔術的な物語。この著者の作品は、「多層的で夢のようなイメージが、メタファーの論理と入り組んだ構文、暗示的な表現によってつながっている」そうです。ル・グインさんを思わせる作品でした。
夏への扉を抜けて、宇宙の無重力都市に到着した人類を描いた魔術的な物語。この著者の作品は、「多層的で夢のようなイメージが、メタファーの論理と入り組んだ構文、暗示的な表現によってつながっている」そうです。ル・グインさんを思わせる作品でした。
「円(劉慈欣)」
暗殺に失敗して始皇帝に仕えることになった荊軻が、300万の軍隊をビットに見立てたコンピュータを設計。不老不死の秘密に繋がる円周率の計算を行うのですが・・。長編『三体』からの抜粋ですが、独立した短編としても優れた作品です。
暗殺に失敗して始皇帝に仕えることになった荊軻が、300万の軍隊をビットに見立てたコンピュータを設計。不老不死の秘密に繋がる円周率の計算を行うのですが・・。長編『三体』からの抜粋ですが、独立した短編としても優れた作品です。
「神様の介護係(劉慈欣)」
神が人類を創造したのは、老年期になってからの介護を依頼するためでした。老いさらばえて科学も技術も忘れ去った20億人のボケ神々を受け入れた人類でしたが、やがて許容の限界に達します。数人の神を受け入れた中国の農村が舞台になっている点が、秀逸です。
神が人類を創造したのは、老年期になってからの介護を依頼するためでした。老いさらばえて科学も技術も忘れ去った20億人のボケ神々を受け入れた人類でしたが、やがて許容の限界に達します。数人の神を受け入れた中国の農村が舞台になっている点が、秀逸です。
他に、劉慈欣、陳楸帆、夏笳の3氏による、中国SFの現状を解説するエッセイが収録されています。
2018/7