りぼんの読書ノート

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ダ・フォース 上 (ドン・ウィンズロウ)

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カリフォルニアに在住して、主に西海岸を舞台とする犯罪小説を書いてきた著者ですが、本書の主人公はニューヨークの警官。しかし本書は読者の期待を裏切りません。著者自身が「これまでの人生はこの本を書くための準備期間だったのではないか」とすら語っているほどなのですから。

 

主人公は、ニューヨ-ク死刑3万8千人の中で最もタフで、最も優秀で、最も悪辣な警官たちを率いるデニー・マローン部長刑事。これまで別組織であった麻薬と銃による犯罪の双方を取り締まる特捜部「ダ・フォース」のリーダーである「刑事の王」として、マンハッタンに君臨しています。普通の人々のために街を安全に保ち続ける市民のヒーローでもあるのですが、黒人系、ラテン系、アジア系などのギャング集団が激しい抗争を繰り広げている街の安全と秩序を保つには、コストも必要でした。

 

それは収賄、違法捜査、違法取引などの腐敗行為であり、汚れ仕事をしている警官にとっては「普通の行動」にすぎないのですが、公にできることではなく、警察の内部監査部、市長、FBI、マスコミなどに知られてはまずいこと。従って、そういった組織の内部通報者となってスパイ行為を働く者は「ネズミ」として忌み嫌われ、警官の互助組織からはじき出されてしまうことになる訳です。

 

だから、まさかマローンがネズミに成り下がるとは、本人を含めて誰もが思っていなかったこと。きっかけは、ドミニカ人麻薬組織の手入れの際に、ボスを射殺してしまったことでした。これは事故だったのか、それとも深い理由があったのか。その答えは物語の最後に明かされることになるのですが、まずはマローンが追い詰められて仲間たちを裏切っていく過程が執拗に描かれていきます。「いかにして人は一線を越えてしまうのか。一歩一歩超えるのだ」と結ばれる上巻を読む限りでは、感情移入しにくいダーティ・ヒーローのようですが、そんな心配は不要とだけ言っておきましょう。

 

2021/3