りぼんの読書ノート

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緋色の研究(コナン・ドイル)

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映画「シャーロック・ホームズ」を見て、「原作に忠実なホームズ像」というあたりが気になったので、シリーズ第一作を読み返してみました。

やはり、ホームズとワトソンの出会いがいいですね。ホームズを奇矯な人物と思い、「探偵学」などキワモノと考えているワトソン医師が、ホームズの観察眼と推理力の前に脱帽するまでのくだりが、長いシリーズの出発点。すべてがそこから始まったのです。

ホームズの独白も、またいいのです。「人生という無色の糸かせ、殺人という緋色の糸がまじりこんでいる。僕たちの仕事はそれを解きほぐし、分離して、1インチのこらず日の光の下にさらけ出すことなんだ」。そういえば、ホームズという人物は、最後までこういう青臭いところを持っていました。

本書は3部構成になっています。第1部が「2人の出会いと事件の発生」、第3部が「事件の解決と謎解き」なのですが、この本は第2部の「事件の背景」がおもしろいですね。数十年前、アメリカ西部の砂漠で迷って死に瀕したところを、安住の地を求めて西に向かっていたモルモン教徒の一段に救われた男と少女。やがて、美しい女性に生長した少女を巡って、ソルトレイクに聖都を開いた教団と、求婚者の間にトラブルが起こり・・。ひとりの復讐の鬼が生まれるというのですから。

ホームズの推理を持ってしても、ここまで深い事情をわかるはずもありませんよね。以前読んだときには、推理とは直接関係ない第2部の存在を「邪道」なんて思ってしまった記憶がありますが、この部分があるから、本書に深みが出ていることを、今回理解できたように思います。

ところで、当時のモルモン教が一夫多妻制を認めていて、指導者のブリガム・ヤングが55人の妻を持っていたことは有名な事実です。今では公式に否定していますが・・。19世紀末のイギリスで、新世界のこのような教団がどう見られていたかとの意味でも興味深い内容です。

2010/5