りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011/4 チボの狂宴(マリオ・バルガス=リョサ)

今月上位に選んだ『チボの狂宴』、『オリクスとクレイク』、『イギリス人の患者』の3作は、時代も国も異なっていますが、前月の『バウドリーノ』と同様にどれも主題が明確であり、複雑なストーリーを見事に、しかもある種の「謎解き」までおまけについている作品でした。まだ『逆行』に毒されていますので、優れた書き手による、明快さと複雑さを合わせ持った作品を読む楽しさをあらためて感じた次第です。
1.チボの狂宴(マリオ・バルガス=リョサ)
31年間に渡ってドミニカ共和国に圧政を敷いた独裁者トゥルヒーリョが暗殺された1961年5月をトゥルヒーリョ自身、腹心の軍人や政治家、暗殺を企てた将校たち、当時14歳の少女だった女性の視点から再構成した作品です。恐怖政治を敷いた独裁者がなぜ、部下や国民から畏怖されながらも愛されていたのか、ノーベル賞作家が「南米モデル」の解明に挑戦した力作は、文句なしの大傑作。

2.オリクスとクレイク(マーガレット・アトウッド)
マッド・サイエンティストによって文明が破壊された世界にひとり残され、「語り部」となった男が、「新人類」として創り出された、野生動物と原始共産制の中間のような生活を営む者たちに語りかけます。相次いで大家による終末小説が書かれなくてはならない時代に、私たちは生きているということを、あらためて思わされます。

3.イギリス人の患者(マイケル・オンダーチェ)
第二次世界大戦末期、フィレンツェ郊外の修道院に残された国籍不明の患者を世話する看護士のハナ。映画では「患者」のアルマーシとキャサリンの悲しく美しい愛の物語が中心でしたが、彼らを含む4人の登場人物が、どのようにして自分の心の中での戦争を終わらせるのか・・という、奥行きの深い物語でした。ハナの生い立ちを綴った前作、『ライオンの皮をまとって』とセットで読むことをお奨めします。



2011/4/27記