りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016/7 僕の違和感(オルハン・パムク)

再々読の『ホテル・ニューハンプシャー』は別格です。町田康訳の『宇治拾遺物語』も、『妖星伝 全7巻』も迫力ありましたが、今月の1位はオーソドックスに、ノーベル賞作家オルハン・パムクの新刊にしました。テロと難民問題に揺れる現在のトルコに対して、著者はどのような思いを抱いているのでしょうか。
1.僕の違和感(オルハン・パムク)
イスタンブルで伝統的飲料「ボザ」を売り歩く、行商人メヴルトが抱き続けた「違和感」の正体とは何だったのでしょう。間違った相手にラブレターを送り続けた末に、略奪結婚してはじめて人違いに気付いたことなのか。それとも、あらゆる対立を内包しながらも大きく変貌を遂げていくイスタンブルの街に対してなのでしょうか。そんなメヴルトが、胸に秘め続けた思いをついに言葉にする瞬間はやってくるのでしょうか。著者のトルコ愛、イスタンブル愛を強く感じる作品です。

2.紙の動物園(ケン・リュウ)
折り紙の動物は、移民先の異文化で育った息子に母の愛を伝えるのか。妖怪退治師の息子と美少女に化ける子狐の愛は、西洋化の進む中国でどうなってしまうのか。データ化されて得られた永遠の生に、人類は耐えられるのか。中国系アメリカ人作家によるSF短編集は、「アジア的な情感」をたたえており、西洋的なSFとは一線を画しているようです。

3.神の水(パオロ・バチガルピ)
ダムと人工水路で自然の流れを捻じ曲げ、地下帯水層を枯渇させながら、強引に作ってしまったアメリカ南西部の都市は、脆いものです。アメリカ諸州が水を奪い合って戦争寸前にある中で、とてつもなく最上位の水利権の存在を巡って、裏切りと謀略が渦巻きます。こうなってしまうと、先進国でも「命の値段」は軽くなってしまうのでしょう。




2016/7/30