今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみます。
長編小説部門(海外)
僕の違和感(オルハン・パムク)
ノーベル賞を受賞した著者の、トルコ愛・イスタンブル愛を強く感じる作品です。イスタンブルで伝統的飲料「ボザ」を売り歩く行商人メヴルトが抱き続けた「違和感」とは、人違いした略奪結婚の末に結ばれた妻に対してではなく、あらゆる対立を内包しながらも大きく変貌を遂げていくイスタンブルに対するもののようです。他の候補は、本年2月に逝去されたウンベルト・エーコの『プラハの墓地』、故スティーグ・ラーソンの遺作の続編を綴ったダヴィド・ラーゲルクランツの『ミレニアム4』など。ポール・オースターの『闇の中の男』は、読んだ当時はインパクトを感じませんでしたが、アメリカの次期大統領が決まった今になってリアリティを増しているように思えます。
長編小説部門(日本)
サラバ!(西加奈子)
男女の違いこそあれ著者の分身のような主人公が絶望の底から這い上がる静かな闘いの物語は、ストーリー・テラーとしての力量を見せてくれただけでなく、感動的ですらありました。文句なしに今年のナンバーワン作品です。他の候補は、長く認知症を患っていた実父を亡くした実体験に基づく『長いお別れ(中島京子)』、19世紀ポーランドの農民蜂起前夜を描いた『吸血鬼(佐藤亜紀)』、近代理性にとってかわる何者かを模索したような『冬の旅(辻原登)』、静謐さの中に力強さを感じる『羊と鋼の森(宮下奈都)』など。
短編小説部門
紙の動物園(ケン・リュウ)
生命を宿す折紙の動物たち、妖怪退治師の息子と美少女に化けた子狐の愛、データ化された永遠の生に耐えきれない心、諦念でも自己犠牲でもない日本的美徳・・。「アジア的な情感」をたたえる中国系アメリカ人作家の作品は、西洋的なSFとは一線を画しているようです。ノンフィクション部門
世紀の空売り(マイケル・ルイス)
「マネーショート」のタイトルで映画化もされました。「サブプライムの破綻=世界経済の破綻」に賭けた男たちへのインタビューを構成した作品の登場人物は魅力的であり、ストーリーはスリリングです。『捕食者なき世界(ウィリアム・ソウルゼンバーグ)』、『復讐者たち(マイケル・バー=ゾウハー)』、『殿様の通信簿(磯田道史)』、『オリンピア(沢木耕太郎)』などの作品も、それぞれ面白かったのですが、旧作ですので。
今年も素晴らしい本とたくさん出合えました。2017年もいい1年にしたいものです。家庭も、仕事も、読書も、そして健康も。来年もよろしくお願いいたします。
2016/12/29