りぼんの読書ノート

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蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一 諸王の誉れ(ケン・リュウ)

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中国系アメリカ人である著者のSF作品が、欧米のSF作家とは一線を画したアジア的感性に溢れていることは、日本デビューを果たした短編集紙の動物園で証明されています。本書は、項羽と劉邦を下敷きにした壮大なSF作品ですが、「中国色」を濃く出し過ぎないようにさまざまな工夫がなされているようです。

舞台を「大陸」ではなく「架空の諸島」としたこと、飛行船などの「シルクパンク・ガジェット」を多用していること、ギリシャ神話の神々を思わせる存在などが該当するのですが、そのあたりが本格的に展開されるのは、第二巻以降とのこと。まずは本書の物語をフォローしておきましょう。かっこ内に記している人名は、『項羽と劉邦』の登場人物ですが、あまり気にする必要はありません。

長年7か国が割拠していたダラ諸島では、皇帝マビデレ(始皇帝)の治めるザナ国が統一戦争に勝利して圧政を敷きます。しかしマビデレの死後、早くも腐敗を始めたザナ国の宮廷に対して、各地で反乱が起き始めます。端緒を開いたのはクリマ(陳勝)とシギン(呉広)の反乱でしたが、両者の不和を衝かれてザナ帝国の正規軍に敗退。反乱軍の希望は、コウクル国の名将の血筋を引く青年マタ(項羽)と叔父のフィン(項梁)に託されます。

一方、街の愚連隊のリーダーながら妙に人望の厚い青年クニ(劉邦)は、賢妻ジア(呂姫)や仲間のコウゴ(蕭何)、リン(盧綰)、ミュン(樊?巾)、サン(夏侯嬰)、さらに軍師として参加に加わったルアン(張良)らとともに、マタが推戴した旧王家の軍に参加。出自も性格も全く異なるマタ(項羽)とクニ(劉邦)は、帝国軍との戦争の中で互いを認め合い、深い友情を結ぶのですが・・。

第1巻は、密命を帯びたアム国の美貌の王女キコウミ(?)が、マタとフィンの叔父甥の仲を裂くところで終了。一般に敷衍している『項羽と劉邦』では添え物にすぎない女性陣の役割が、相当違っているようですが、この後どのような展開になっていくのでしょう。『紙の動物園』に収録された「良い狩りを」を思わせるという「シルクパンクぶり」がどう描かれていくのか、楽しみです。

2016/9