りぼんの読書ノート

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もし、シェイクスピアがスター・ウォーズを書いたら「帝国、逆襲す」(イアン・ドースチャー)

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シェイクスピアの文体で書かれた「スター・ウォーズ」の「エピソード5:帝国の逆襲」は、「コロスによる背景要約」から始まります。この部分が、本書の意味合いをよく伝えていると思いますので、全文引用しておきましょう。映画の冒頭で、宇宙空間に文章が流れていく部分ですね。

  到来す、叛乱軍の暗き時代。
  デス・スター破壊ののちに、灰より蘇りし帝國軍は強大。
  叛乱軍に逆襲せり、直ちに。
  その猛攻を受けて逃げ惑う叛乱軍は、銀河の果てへ追われたり。
  ルーク・スカイウォーカー率いる一団は、氷の惑星ホスへと飛び来たり。
  一方、ダース・ベイダーは残虐陰険、
  若きルークを見つけ出さんと、探査ロボットを宇宙各処へ派遣、
  着々と広げたり、その怒りの版図。
  我らが芝居の始まりは遙か過去。昔噺に似たり。
  戦で引き裂かれし、遠き銀河の物語。

ストーリーは、誰もが知っている通り。銀河の果ての氷の惑星ホスを追われたルークは、惑星ダゴバの湿地帯に隠棲するヨーダと出会って特訓を受け、ハン・ソロは旧友ランド・カルリシアンの裏切りにあって炭素冷凍され、レイア姫は辛うじて脱出。ダース・ベイダーと対決したルークは、彼が実の父親と知らされて動揺するという物語。

これを「シェイクスピア調」にするとどうなるのでしょう。ルークの苦悩は『ハムレット』になり、レイア姫ハン・ソロが反発しながら惹かれていく様子は『から騒ぎ』。その他、『マクベス』や『オセロー』や『リア王』や『テンペスト』や『真夏の夜の夢』のような場面もセリフも登場。

極め付けは、ヨーダのセリフが全て「五七五」の「ハイク調」だということ。シェイクスピアが俳句を書いたわけではないのですが、黒澤明監督の代表作「姿三四郎」の師匠役の和尚をモデルにしたともいわれるヨーダに、俳句はよく似合っているのです。これは、著者の手柄なのか、それとも翻訳の河合祥一郎さんの手柄なのか、どっちなのでしょう。

このシリーズは、『エピソード4:まこと新たなる希望なり』と『エピソード6:ジェダイ、帰還せり』も出版されているとのこと。でも、これ以上読む必要はないかもしれません。

2016/4