りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ピエタ(大島真寿美)

イメージ 1

冒頭で知らされるヴィヴァルディのウィーンでの客死は1741年のことですから、ヴェネツイア共和国の終焉まではあと半世紀ほど。ヴェネツィアの文化が、最も爛熟した時代の物語。

語り手は、ヴェネツィアピエタ慈善修道院で育てられた孤児のエミーリア。かつてピエタの付属音楽院の教師であったヴィヴァルディから音楽を学んだものの、孤児仲間の親友で「合奏・合唱副長」となったアンナ・マリーアの天才性に及ばないことを知り、聡明さを認められて現在は書記の仕事に就いています。

エミーリアは、一緒に音楽教育を受けた貴族令嬢ヴェロニカの依頼で、恩師の遺品から一枚の楽譜を探し出すことになり、様々な人々を訪ね歩きます。それは彼女を過去の出来事と向き合わせただけでなく、さらに聖と俗、生と死、男と女、真実と虚構、絶望と希望とが美しく調和した、この時代のヴェネツィアに生きる幸せを、あらためて実感させることになっていくのでした。

ヴィヴァルディを通じて、アンナ・マリーアや、ヴェロニカや、オペラ歌手ジローや、薬屋に嫁いだジーナや、聡明なコルティジャーナ(高級娼婦)のクラウディアなどの女性たちと結んだ友情が、夜の運河を行くゴンドリエーレの唄のように、しみじみと謳いあげられます。一枚の楽譜が生んだ「むすめたち、よりよく生きよ」の歌詞のように・・。

ところで、ヴィヴァルディの弟子で、ピエタ付属音楽院で「合奏・合唱副長」を務めたアンナ・マリーアは、実在の人物だそうです。ヴィヴァルディが孤児院の生徒のために作曲した「アンナ・マリアのための協奏曲集」という音楽が遺されています。

2011/8